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中世ダークファンタジー剣戟譚『LANCASTER《ランカスター》』連載中 © 2019 エンタメスタジオCre-eat

ブログ小説『LANCASTER《ランカスター》』:第0話 目覚めたら百年戦争の地にて

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こちらの記事はLANCASTER《ランカスター》のプロト版として、実験的に描いた作品となります。

更新予定はありません。

正規版のLANCASTER《ランカスター》は以下の通り連載しておりますので、

LANCASTER《ランカスター》を楽しみたい方は以下よりお楽しみください。

 

 

この地では、死がまるで日常のようだった。

「こ、ここは一体どこだ……」

男は、眼前に広がるおぞましい惨状を見て、ただ呆然と立ち尽くした。

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目の前には、血の海が広がっていた。

見覚えのない山野には、西洋鎧を着た兵の骸が山のように積み上がり、辺りには、首や千切れた手足、腐乱した臓物が無残に散らばり、その悪臭はまさに壮絶の一語に尽きた。

先程まで都会のオフィスビルの屋上で深夜残業に疲れて煙草を吹かしていたはずだが……………………と男は思った。

しかし、どういう訳だろうか。いま目の前に広がる光景は、男がいた平和な現代とは全く異なる光景だった。それは、まるで中世暗黒時代のような有様だった。

見覚えのない光景に戸惑いや恐怖を感じているとーー

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と得体の知れない"何か"が蠢くような不気味な音が聞こえた。その音はどうやら死肉の山からしたようだった。

男は、恐るおそる内臓の散らかった醜い山の方を伺うと、烏が死骸の目玉を突きながら薄気味の悪い嗤い声を上げているのが見えた。

一瞬、もっと恐ろしい"何か"がいるのではないか、と思っていたけれど、男は杞憂だったことに少し安堵した。

だが次の瞬間、腐肉の山からぬるりと姿を現した"それ"の姿を見て、男は恐怖と驚きから思わず腰を抜かした。

「な、なんだ、あれは……」

死肉の山頂から魔女のような鼻の長い顔色悪い不気味な老婆がまじまじとこちらを見つめているではないか。

高く積み上がった死体のせいで足下はよく伺えなかったが、"それ"は辛うじて人の形を取っているようだった。

その証拠に、老婆は、破れが目立つ鼠色のスカートに、血の染み込んだ汚らしいフードを目深に被っていた。加えて、くの時に異様に曲がった背がその不気味さに拍車をかけた。

男は地べたから尻を起こして立ち上がると、腫れ物に触るかのようにビクビクとしながら老婆に声を掛けた。

「お、お前は何者だ……」

老婆は、男の問いに一切反応しなかった。それどころか、男の話を聞いているかどうかも定かではなかった。

普通、人はじっとしていても呼吸のせいで肩や胸等が上下したものだったけれど、不思議な事にその老婆は、まるで息を止めているかのように微動だにしなかった。

男は、その死人のような老婆に内心怯えつつも質問を続けた。

「ここはどこなんだ……なぜ俺はここにいる……それに一体この状況は何なんだ」

老婆は、依然として男の問いに沈黙を貫いた。それからしばらく男は、老婆からの返答を待ってみたけれど、老婆は、一向に口を開こうとはしなかった。

男は、そんな老婆の様子に次第に苛立ちを覚え、語気を強めてこう言った。

「おい、聞こえているのか。頼むから何か答えてくれよ!」

そんな必死の叫びも虚しく、骸のような老婆は、まるで反応を見せなかった。

これ以上は相手にしても無駄か……そう諦めかけた時だったーー

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と、突如、耳元で低くしゃがれた不気味な嗤い声が聞こえた。

驚いて辺りを見渡してみるけれど、奇妙な事に、周りには死体ばかりで生きている者など誰一人いなかった。

確かに近くから聞こえてきたはずだが……と男は不思議に思いつつも、老婆から聞きたい事を聞き出せていない事を思い出すと、再び老婆の方へ向き直った。

だが、どういう訳だろうか。振り返って見てみると、そこにいたはずの老婆がいなくなっているではないか。

次の瞬間、男は背に急に氷を入れられたような寒気を感じて、慌てて後ろを振り返った。

すると奇妙な事に、小汚いボロを纏った皺だらけの不気味な老婆が俯きながら立っているではないか。

一体いつの間に……疑問に思うのも束の間、老婆はフード越しに男を見上げると、静かにこう語った。

「争いがあった。百年にも渡る永き争いがあった。玉座に王はなく陽は陰り、二つの国が王位を求め争った。濃霧に包まれた暗き国イングランド。呪われた不死王の国フランス。今や、世は悪意と憎悪で腐りつつある」

「何を言っているんだ……」

老婆は、目深に被ったフードで顔を隠しながら、不気味ににやりと嗤うと、続けてこう言った。

「"しるしを持つ者"よ。さぁ、絶望する覚悟はよいか。これから聖遺物を巡ってより多くの血が流れるだろう。その先であらゆる願いを叶える《奇跡の円環》を求めるのだ。抗うんだよ、命を燃やし続けながら何度もね」

「どういう意味だ……」

男は、依然として老婆の言っている話を理解できなかったけれど、それとは別に男には気になる事があった。

それは、老婆の視線が先ほどからこちらの手の甲に向いている、というもの。

なんだ……不審に思って手の甲に視線を落とすと、不思議な事に、見慣れぬ"しるし"のようなものができていた。

「痣……」

そのしるしのような痣は、ちょうどアルファベットのNのような奇妙な紋様を描いていた。

しかし、それは痣と呼ぶには、あまりに色濃くはっきり浮き出過ぎていた。それは、まるで逃れられないように焼きごてで烙印を入れられたかのように、くっきりと刻まれていた。

どこかに手でもぶつけたのか……男はそう思った。しかし、いまは痣など取るに足らない些事に過ぎなかった。それよりも、男には他に優先して聞きたい事があった。

「待ってくれ。あんたは先から何を言っているんだ。百年の戦争に王位だって……ここは日本じゃないのか」

男は、そう言って、老婆ににじり寄った時だったーー

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と、老婆は、再びしわがれた薄気味の悪い嗤い声を上げた。

「何がおかしい……」

くの字に曲がった腰を更に曲げて笑って見せるその異様な姿を見て、男は思わず後ろに身を引いた。

老婆は一しきり嗤うと、男の方を見上げ、枯れ木の枝のように細い人差し指を死肉の山際に向けた。

それは、見ようによっては、もっと遥か遠く彼方を差している様にも見えた。

「行くしかないのさ。もう十分なのさ、こんな悪意で腐り果てた世界など……この世界の惨劇を終わらせるんだよ。だから行くのさ。もう戻れやしない果てしない絶望の旅へ、ね」

老婆の言葉は、そこまでだった。

次に男が振り返った時には、老婆の姿はもうなかった。代わりに、そこには薄汚いフードを纏った小柄な骸がぽつんと転がっていた。

「あの老婆は一体……」

結局聞きたい事は何一つとして聞き出せなかった。なぜ自分はここにいるのか、ここは一体どこなのかさえ。それに百年に渡る戦争、王位、それらの言葉が何を意味しているのかも分からなかった。

まるで酷い悪夢を見せられているような、そんな気分だった。

「ここは、俺の知っている世界ではないのか……」

死肉の山から染み出た赤い血のほとりで、男はどうする事もできず、ただ立ち尽くした。

眼前に広がる空は、暗い雲に覆われて、陽は不気味な程に陰っていた。

どうしようもない不安だけが男の胸を強く締めつけた。

 

 

『LANCASTER《ランカスター》』 第0話 目覚めたら百年戦争の地にて -完-

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