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中世ダークファンタジー剣戟譚『LANCASTER《ランカスター》』連載中 © 2019 エンタメスタジオCre-eat

ブログ小説『LANCASTER《ランカスター》』:第3話 旅立ちⅠ《王都出立篇》

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こちらの記事はLANCASTER《ランカスター》のプロト版として、実験的に描いた作品となります。

更新予定はありません。

正規版のLANCASTER《ランカスター》は以下の通り連載しておりますので、

LANCASTER《ランカスター》を楽しみたい方は以下よりお楽しみください。

 

朝霧は、篝火に照らされた薄暗くカビ臭い石造りの階段を上りながら、先導する小さな少女の背を不思議に思いながら見つめた。

歳はいくつぐらいなのだろうか、見た感じは17~18歳といった感じだが。

一番不思議なのは、一体どこで自分の存在を知り、なぜ自分に声を掛けたかだ。

それに彼女に従うとは言ったけれど、これからどこに向かって何をするのだろうか。

亜麻色の髪を揺らす少女の背を追いながら、

「マルグリッドは、なぜ俺に声を掛けたんだ」

「ランカスターでいい。それは、グランマの予言に貴方の出現が予期されていたからだ」

「グランマの予言……?」

ランカスター曰く、グランマとは、ここから北西にある小さな町の修道院で働く修道女とのことだった。

グランマは齢70という高齢であったけれど、孤児の受け入れを積極的に行い、甲斐甲斐しく世話をしたので、町の人や孤児からは、グランマ(祖母)の愛称で親しまれた。

一方、グランマには、慈悲深い修道女という顔とは別に、もう一つ、預言者という顔があった。

予言は、頭痛から始まる。一度その頭痛が起きると、まるで寝ている時のような夢を見た。

しかし、その夢は、普通の夢とは違って、写真で切り取ったような場面が瞬間的に不連続に次々再生される、というもの。そして、その夢の中に、光と共に一人の男が東方より現れるのが見えた、という事だ。

「だが、その予言が正しいとして、なぜ俺に会う必要があったんだ」

「それは私にも分からない。グランマは決して理由を話してはくれなかったけれど、その者が現れたならば、きっと私の道を大いに手助けしてくれるはずだ、と。そう言ったのだ」

ランカスターの道を手助けする、か。確かに彼女に従うとは言ったが、果たして自分に何ができるのだろう。自分は無力な人間だ、誰かの役に立てるような人間ではない。

「俺たちは、これからどこに向かうんだ」

「聖遺物を探すための旅に出る」

「聖遺物……?」

ああ、と頷くランカスター。

「繰り返し争う愚かな人間を見て、憐れんだ天上の神がこの世から争いをなくすため、人を遣わして作ったとされるものが聖遺物だ」

ランカスター曰く、よく神話や英雄譚には、選ばれし者が不思議な力を宿した剣や槍等で悪や魔を打ち払う、といった勇ましい姿が描写されるけれど、その選ばれし者のみが所持することを許された装具こそ、聖遺物という事だった。

完全にランカスターの話を理解しきれた訳ではない。だが、そういったものがあっても、不思議ではない。

今ならそう思えた。

この世界に来てからというもの、自分の常識がいかに通用しないか、嫌というほど思い知らされた。

だから今は信じてみることにしたんだ。

「その聖遺物を探してどうするんだ」

足をぴたりと止めるランカスター。

短く結った栗色の髪を揺らして振り返り、真剣な表情で、

「この百年戦争を終結に導き、もう誰も悲しまなくていい世界にするーーそれが、私の願いだ」

暗く冷たい石階段に一陣の風が吹き抜ける。ゆらゆらと燃え上がる篝火。

暗闇に燃え上がる炎を背に、少女の瞳は揺るぎない決意に満ちていた。 

「そのために、私にはあらゆる願いを叶える聖遺物ーー《奇蹟の円環》が必要なのだ」

「あらゆる願いを叶える聖遺物だって……」

そんな人智を遥かに超えたものがあるのだろうか。いや、疑うのはもう止めだ。

《奇蹟の円環》……それがあれば、もう一度、元の世界に戻れるかもしれない。ならば、手に入れよう。

全ては、生きて再び元の世界に戻るためにーー

「それでは、行こうか。朝霧」

「ああ。ランカスター」

外套をばさりと揺らして守衛の横を通り過ぎるランカスター。そして、大きな鉄扉を大きく開け放つーー

二匹の鳩がばさばさと青空に向かって大きく羽ばたく。眩しい陽の光。曇り一つない快晴。

まるで旅立ちを祝福しているかのようだった。

こうして二人は、石造りの牢獄塔を後にすると、眼前に広がる賑やかな城下街を目指した。

 

 

街に出ると、石畳の道にレンガ造りの建物がひしめき合うように並んでいた。

軒先に吊るされた洗濯物が陽に照らされ白く光りながらはたはたと揺れる。

通りには、ジャガイモを蒸かしたような甘くて香ばしい匂いがどこからともなく漂う。ははは、と無邪気に笑う子供たちの声。がらがらと往来する馬車。街は行き交う人々で賑わっていた。

朝霧は、ランカスターと肩を並べて歩きながら、元の世界とは異なるヨーロッパらしい雰囲気に異国情緒を感じつつ、見慣れない街並や人々の様子を眺める。

「それでこれからどうするんだ」

「まずは旅の支度をしよう。それにその恰好ではあまりにも目立ち過ぎる」

ランカスターの言う通り、この背広姿は、多くの人々にとって奇抜なものに見えていたようだ。

すれ違う度に、 ジロジロと好奇の視線を浴びる。

「ああ、俺もできればそうしたい」

「よし、ならば決まりだ。ところで先程から気になっていたのだが、その手の傷はどうしたのだ」

朝霧の手の甲に刻まれていた紋様を不思議そうに見つめるランカスター。

「分からない。気づいた時にはこうなっていたんだ」

「気づいた時には? 朝霧、貴方は鈍感なのか。普通そんな傷を負えば、すぐに気づくのでは」

本当に分からなかったのだから仕方がない。気づいた時にはもう既にこの紋様があったのだから。

しかし、いったい、この"しるし"のようなものは何なんだろうか……

そうこうしているとーー

「着いたぞ。ここで装備一式を揃えよう」

通りから少し外れた一軒の店の前で立ち止まるランカスター。

その石造りの店には大きな煙突が一つ、客を出迎えるためのコの字のカウンターが一つ外に飛び出している。店の前には、無骨な字で《ブラック・スミスの工房》と書かれた看板。

ランカスターは、ちりんちりん、と、誰もいないカウンターのベルを鳴らしながら、

「私だ。ランカスターだ。誰かいないのか」

待てども、店の奥から誰かが出てくる気配は一向にない。

痺れを切らしたランカスター。ちりんちりんちりん、ベルを鳴らしまくる。

店の奥からどしんどしんと大きな足音を立てながら熊の鳴き声のように低く渋い声で、

「聞こえとるわぁ。さっきからじゃあかましいのう。少しは待てんのか」

カウンターの前に一人の大男が姿を見せる。

長いボサボサ白髪に、口の周りに蓄えた立派な白ヒゲ、見た感じは60~70歳ぐらいといった齢の老人。だが、その年齢には似合わず、彫刻のような逞しい肉体をしているではないか。

「おお、誰かと思えば、ホークウッドの弟子か。あの放蕩野郎は元気にしてるのかのう?」

「弟子だったのはとうに昔の事です。それに師匠が今何をしているかなんて知りません。それよりいい加減、名前を覚えて下さい。私の名は、ランカスターです」

大男は、ランカスターがあまりにも真面目な表情で答えるものだから、おかしいと思ったのか、そうかそうかと言って、大口を開けてガハハッと笑ってみせた。

ランカスター曰く、この大男こそ、この鍛冶屋の店主であり、名をブラック・スミスと言った。

その見た目こそ、がさつで大雑把そうな印象だが、その腕は一流で一度鍛冶が始まると、細工師のような繊細さを見せた。そうして出来上がった装具には、ブラック・スミスの印が押され、その耐久度は一級品と称される程という。

「で、ランカスターよ、今日はいったい何の用じゃ」

「この朝霧に装備一式を見繕って欲しい」

はて、と眉をひそめるブラック・スミス。

「この怪しげな服を着た男にかのう?」

ランカスターは、ああ、と頷く。

ブラックスミスは、困ったようにうーんと唸りながら、

「おい、そこの、朝霧と言ったか。儂の商品は高いが、あんたに払えるのかのう。人を見た目で判断するのは柄じゃあないが、それでもあんたは金も運もなさそうじゃ」

当然、金などない。首を横に振る朝霧。

ランカスターは、腰に結び付けていた巾着を取り出すと、金貨を数枚取り出し、卓上に置きながら、

「その事なら私が支払おう」

「おいおい、いいのかのう。何もランカスターが支払う事はないだろうに」

「そうだ。俺なんかのためにそこまで……」

「構わない。元よりそのつもりだ。それに、元はといえば、私が無理を言って、旅に付き合わせる形になってしまったのだから。私が支払うのは当然の事だ」

ブラック・スミスは、ランカスターがそこまで言うので、しぶしぶ金を受け取りながら、

「分かった引き受けよう」

大きな背を見せ、二人に工房の中に入るように促した。

工房の中は、鉄と火の匂いに満ちていた。

部屋の中心には、火床が据えられ、大小様々な石炭が放り込まれており、メラメラと真っ赤な火焔を上げて、今や盛んに燃えている所だ。

火床の周りには、火に照り輝く美しい種々様々な鎧が立ち並び、壁には東洋のものとも西洋のものとも付かぬ多様な武器が飾られているではないか。

ランカスターは、ブラック・スミスを見上げながら、

「ヒゲじい、それでは、後はお任せします」

「おうよ、儂に任せな。いい感じに見繕ってやるさ」

どうやらヒゲじいとは、ブラック・スミスの愛称の事らしい。

口周りに生やした堂々たる白髭から、ヒゲじいと呼んでいるのだろう。

ブラック・スミスに背を向けるランカスター。

工房の扉に手を掛け、外に出ようとした所で、ああ、と何かを思い出して、振り返る。

「それと、朝霧に風呂を貸して貰えないだろうか」

「別に構わんが、どうしてじゃ?」

ランカスターは、少し言い辛そうに、

「その、あれだ、臭うからだ」

「臭うだって……?」

はて、と首を傾げるブラック・スミス。

土や埃まみれの小汚い衣服を纏った朝霧に、くんくん、と鼻を寄せる。

うぎゃあああああ、室内に大男の悲鳴がこだました。

よほど臭かったらしい。 思えば、この世界に来てから泥や汗にまみれたせいで、服は酷く汚れていた。加え、風呂にも入れていないのだから、臭いも相当のはずだ。

「では、私は外で待っているぞ」

朝霧とブラック・スミスをその場に残して外に出るランカスター。

ブラック・スミスは困ったようにボサボサ白髪を掻きながら、

「おい、そこの朝霧といったか。装備は儂の方で用意しといてやる。その間にお前さんは隣の浴場で身体の汚れでも落としてくるんじゃな」

「申し訳ないが、そうさせて貰えると助かる」

ここは素直にブラック・スミスの言葉に甘えさせて貰った。

部屋に着くと、人ひとりが入れる程度の大きな木桶に湯が並々張られていた。

これは後で聞いた話だが、ブラック・スミスは、鍛冶屋でありながら風呂屋も兼業しているとのことだった。鉄を打つ際の熱を利用して、湯船を沸かしているらしい。

頭の先からつま先まで流し湯でがしがし洗う。

並々張った暖かい湯船に肩までどっぷり浸かる。それから、ゆっくり目を閉じる。

「この地に来てから色々な事があった……」

まだ全てを完全に飲み込めた訳ではないが、それでも一つだけ確かな事がある。

それは、ここはもう自分が知っている世界ではない、という事。

この短い間にも、何度も死の恐怖があった。これから先の旅には、もっと大きな困難や絶望が待ち受けているかもしれない。それでも歩み続けるしかない。それが今の自分にできる事だ。

全ては、生きて再び元の世界に戻るためにーー。

朝霧は改めて決心すると、風呂を後にした。

代えの着替えがなかったので、仕方なくスーツを着て出ると、

「おう、もう上がったのか。湯加減はどうじゃった」

「ああ、お陰様でスッキリしたよ」

ブラック・スミスは、小脇に衣服や籠手等を挟みながら埃っぽい戸棚を開けたり閉めたりして、何やらガサゴサと忙しなく探し物をしていた。

あったあった、と戸棚から一枚の外套を引っ張り出して振り返る。

「なんじゃ、まだ、そんな汚いボロを着ておるのか」

「仕方ないだろ。これしかないんだ」

ブラック・スミスは、はあ、と溜息を漏らすと、小脇に抱えていた装備一式を前にどんと差し出す。

「そんなばっちいの早く捨てて、これに着替えるんじゃ」

「すまない、何から何まで助かる」

装備一式は以下の通りだ。

・厚手の黒装束/鉄製の籠手/ブーツ/緋色の外套

汚い背広を脱ぎ捨て、それら一式を身に着けると、忍者のような暗い見た目になった。

ブラック・スミスは、感心したように頷きながら、

「ほう、随分と様になったのう。着心地はどうじゃ」

「ああ、ぴったりだ」

手を開いたり閉じたり、つま先を床に打ち付けたりしてみても、装備が身体の動きを阻むようなことはない。これなら激しい動きをしても問題なさそうだ。

特にこの外套はいい。まるで羽織っていないかのように軽い。なのに暖炉のようにめらめらと暖かい。

「気に入ったか。その外套は火の精霊《サラマンダー》の繭で織った一級品じゃ」

「一級品だって……?」

「そうじゃ。その外套は、火の中に入れても決して燃えず、並の攻撃なら決して刃を通さない代物だ。そいつはきっとお前さんを災厄から護ってくれるはずだ」

「そんな貴重な物を貰っていいのか」

「気にするんじゃあない。可愛いランカスターの頼みじゃ。これくらい安いものよ」

ガハハッと気前よく笑って見せるブラック・スミス。

「ところで、あんたとランカスターはどういう関係なんだ」

「そうじゃのう、言ってみれば、可愛い孫のようなものなのかもしれないのう」

「孫のようなもの……?」

ブラック・スミスは、少し遠くを見るような目をすると、記憶を辿るように、ぽつりぽつり、と口を開いた。

 

 

ブラック・スミスがランカスターと初めて出会ったのは、今から5年前、ランカスターがまだ12歳の頃だった。

その日は、強い嵐だった。

ブラック・スミスが工房で鍛冶をしていると、こんこん、と扉を叩く者があった。

こんな強い嵐の日に訪問とは珍しい事もあるものだ、不思議に思いながらも、扉をがちゃりと開ける。

扉を開けると、フードを被った一人の少女が小汚いボロを大事そうに抱えながら佇んでいるではないか。

小汚いボロを差し出す少女。その後、すっかり冷たくなっていた小さな手で硬貨を数枚渡して来た。

「これで私の命を直して欲しい」

私の命とは、たいそう大仰な事だとは思いつつも、ブラック・スミスは、依頼の品とあまりに少ない報酬を受け取ると、とりあえず少女に暖かい工房の中に入るように言った。

工房に入ってからは、少女を暖の前に座らせ、暖かいスープを一杯目の前に差し出してやった。

適当な椅子によっこらせっと腰を下ろすブラック・スミス。さっそく少女から受け取った小汚いボロを解く。すると、使い古されてボロボロになった一本の長剣がぼろりと姿を現した。

「これは酷いものじゃ……」

率直に言って、剣の状態はあまりに酷かった。

刀身には無数の刃こぼれが存在し、切先は摩耗して既に丸くなっていた。柄は長年の血が染み渡り赤黒く変色している。

……一体、どういう使い方をすれば、ここまでボロボロになるのだろうか。

ブラック・スミスは不思議に思ったものだった。

その時、スープをずずと啜る少女の手を見て、おや、と奇妙に思った。

鍛冶屋としてすぐに気づく事がある。それは、その者が剣士であるかどうかという事。

剣士の手には特徴がある。それは柄を握った時に触れる部分、すなわち母指球と小指球、それから指の関節部位の皮が常人より厚く肥大しているのだ。

少女の手は、その美しい顔には似合わず、それらの皮が厚く肥大しているではないか。

それも無数の血豆や擦り傷を作ってだ。

間違いない。その手は、紛れもなく剣士の手であるーー

まさかと思い、ブラック・スミスは問うた。

「この剣は、お前さんの物か?」

少女は、うん、と静かに頷き、

「私は騎士になる。もう誰も悲しまなくていい世界にするために。だから私にはこの剣が必要なのです」

少女のその静かなる決意と剣を命と言ってみせる誇り高い覚悟に、ブラック・スミスは、この娘のためにその剣を打ち直すことを決めた。

そして、この出会いこそが、ブラック・スミスとランカスターの初めての出会いだった。

 

 

「そんな過去があったのか……」

まだ年端もゆかぬただの少女だと思っていたけれど、まさか、そこまで剣に生きる人生を送っていたとは……

改めてこの時代この地に生きることの難しさを考えさせられた。

「さて、話が逸れてしまったのう。で、武器はどうするかのう」

「武器か」

壁には多種多様な武器が並んでいた。炎の揺らめきのような刀身をした長剣だったり、鋭い穂先に槌を付けた長槍だったり等、見た事ないような武器が所せましと飾られていた。

無論、今まで争いとは無縁の平穏な世界で生きていたので、どれが良いかなど分かるはずもない。

だが、その中に一つだけ見覚えのある武器が飾られているではないか。

「そいつは止めておくんじゃ」

店の奥から怖い顔をしながらその黒漆の鞘に入った刀を睨むブラック・スミス。

「それは、《妖刀ムラマサ》じゃ」

「妖刀ムラマサだって……?」

「それはその昔、東方の地から伝来した斬味壮絶無比の妖刀じゃ。その斬れ味の良さゆえ、その刀を持つ者はみな魔女に憑かれたように、血を欲し、斬ることに酔う。そして、最期は自身の血でその刀を染めた、という呪われた品じゃ」

そんな刀がなぜここにあるのだろうか。だが、そんな疑問もすぐにどうでもよくなった。

それよりもその刀身を覗いてみたいと思った。

なぜそう思ったのかは分からない。でも、覗いてみたいという欲求は次第に覗かなきゃという支配に変わる。

後で思い返せば、その妖しげな刀の覇気に魅せられたのかもしれない。

鞘に手を掛け、恐るおそる刀身を抜くーー

「おいおい何をしてるんじゃ! 人の話を聞いておるのか! その刀は、持つ者に禍をもたらす妖刀じゃぞ」

朝霧にはもはやブラック・スミスの言葉は届かなかった。

その刀身から立ち昇る禍々しい邪気に当てられて、人を斬ってみたい、と思った。

ブラック・スミスに肩を叩かれて、ようやく正気を取り戻せた。

「この刀がいい……これを貰えないか」

「何を言ってるんじゃ……さっきも言った通り、それは持つ者に禍をもたらす妖刀じゃぞ」

「それくらいの方が丁度いい」

神であろうと、死神であろうと、力を貸してくれるなら、むしろ喜んでその禍を受け入れよう。

何の力もない俺がこの世界で生き抜くにはそうした力が必要だ。

ブラック・スミスは、やれやれ、と両手を上げ、

「分かった。そこまで言うなら持って行け。だが、くれぐれも飲まれるでないぞ。その刀は血を欲す。斬れば斬るほど、蝕まれていくこと、ゆめゆめ忘れるなよ」

「ああ、忠告ありがとう。覚えとくよ」

妖刀を肩に引っ提げ、ブラック・スミスに背を向ける。

工房を出る直前、ブラック・スミスは、子を思う親のような表情で、

「これから先の旅は恐らく過酷な旅になるだろう。くれぐれもランカスターを頼むぞ」

「ああ、俺は俺にできる事を必死でやってみるさ」

店を出ると、路地裏には数人の幼い子供たちが球を転がしながらワイワイと遊んでいた。

その中には、ランカスターの姿もあった。

子供たちと混ざって無邪気な笑みを浮かべながら遊んでいる所を見ると、年頃の普通の少女のように見える。

しかし、実際にはその小さな背中にどれだけの重荷を背負っているのだろうか。

百年戦争を終わらせる……それは生半可ではないように思う。きっと重たくて苦しいはずだ。

なのに、ランカスターはそんな様子を見せない。

まるで英雄のようだ。

ランカスターは、こちらに気づくと、慣れたように子供たちの頭をぽんぽんと優しく撫でながら、

「それじゃ、お姉ちゃんはもう行くよ」

「えー行かないでよ~もう少し遊ぼうよ~~」

「また遊ぼう。約束だ」

「うん、分かった! 約束ね!」

膝を折って子供と指切りするランカスター。

その表情は聖母のように優し気な微笑を浮かべていた。

ランカスターは、短く結った亜麻色の髪を揺らしながら、

「準備はもういいのか、朝霧」

「ああ、おかげでこの通り一式揃ったよ。サイズもピッタリだ」

「そうか、なら良かった」

「それに臭くもないだろ?」

「なんだ、気にしていたのか」

「当たり前だ」

ランカスターは、くすりと笑いながら、

「それはすまなかった」

「それより意外に子供の扱いが上手いんだな」

「ああ、昔に少しな」

遠くの北西の空を懐かしむように見つめるランカスター。

北西の蒼穹は、ランカスターの瞳のように限りなく透明に近いブルーだった。

ランカスターは、外套をばさりと翻し、歩き出す。

「それでは、先を急ごう」

「今度はどこに行くんだ」

「私の仲間の所だ」

 

 

『LANCASTER《ランカスター》』 第3話 旅立ちⅠ -完- 

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